コロモヘン便り

日日是好日。日々のこと、時々イラスト載せたりします。

ゆりちゃんの車

※話の内容はあくまで子供時代の私視点の解釈です。事実とは異なることがあります。まずはご理解の上ご一読ください。

※やっさんとゆりちゃんもご理解よろしくお願いします。 

 

 

 母は当初、車の免許を取っていなかった。最初の記憶は自転車の後ろに乗せてもらい、一緒に買い物に行っているこの場面かもしれない。ゆるい坂道で私を乗せた自転車を押して登っていた時の、道路横の砂を踏むタイヤと足音が今もリアルに覚えている。

 なぜ車の免許を取ろうと思い立ったのか、その理由は定かではない。母の死後父が懐かしむように話してくれた。母が免許を取ることになった時、近所が少々沸き立った。母に続いて私も取ろうかしら、と言う人もいたらしい。免許を取ることではなく、父の生まれ育った土地に嫁いできた母が、近所のちょっとした話題になったことが嬉しかったのではないかと思う。そう思ってしまったのは、その時の父の表情がとても柔らかかったからだ。

 見事免許を取得し、我が家に2台目の車がやって来た。今でも覚えているが母の赤いまん丸い軽自動車はシートが黒の合皮だった。冬はひんやり冷たく、夏は灼熱の車内温度に加え、太陽光の熱を吸収した黒いシート。お尻と太ももが理由なき拷問を受ける。故に座布団が置かれるようになった。

 ある日、車に乗って買い物をした帰り、幼い私と妹が後部座席に座りアイスクリームを食べていた時のこと。妹がアイスをボタボタ垂らしていたのを私がとっさに、「よーちゃん(妹)がアイス垂らしとる!」と言うと、母が反射的に後部座席を振り返った。その数秒後、道路沿いの花壇に激突。幸い怪我人もなく私達3人も無傷。警察官やその場に居合わせた親切な人達に助けてもらい、帰宅の途についた。その後の記憶はないが、母が大層落ち込んだ様子だったとは、誰かの口から聞いたような気がする。

 この記憶の後だったか先だったか、もうひとつ同時期の記憶が今もくっきり色濃く残っている。